趣味から考える価格と値上げ

2025年もあらゆるものが値上げのニュースが続いていますね。
野菜や製品が上がった分生産者が儲かるんならいいんですが、転売行為や不当な価格操作には乗りたくありません。

消費者としては納得して買い物をしたいですし、事業者としては適正な価格を探ることはとても大切です。価格の決定要素から、適正価格について個人的趣味を例に考えてみます。

原価と生産コスト

値上がりのニュースで個人的に慄いているのが、万年筆の値上がりです。
ここ数年どのメーカーも何度も値上げを重ねており、
2倍くらいになっているものがあるような…とざっと検索してみました。

愛用しているプラチナのセンチュリー
私は10年前くらいに8,000円くらいで買ったはずですが、
11,000円⇒(2019)14,300円⇒(2021)16,500円⇒(2023)22,000円

ペリカンのM600もその後すごい頑張って百貨店で4万くらいで買った気がするんですが
44,000⇒(2020)46,200円⇒(2021)49,500円⇒(2022)55,000円⇒(2023)60,500円⇒(2024)71,500円

うーん…もともと安くはなかったのですが、敷居が高くなってきました。

私はコレクターではないのですぐに買うつもりはないのですが、
今使用しているものが壊れたり、欲しいものができたら怖いです。
限定モデルとなると争奪戦なので迷ってる暇がないんですよね…それでも買えるかは怪しいところですけど

価格を動かしている最大の要因は原価です。

万年筆はペン先で使用する金、本体に使用される樹脂が高騰しています。
ペン先を作るのは職人技なので、コストカットなんてもってのほかです。
また、ボールペンなどの消耗品に比べればユーザー人口も購入頻度も限られているため、生産規模は小さい。
従って大量生産のほうが固定費が分散され、一つ一つに係る経費が少なくなる生産のスケールメリットは小さく、水道光熱費その他の生産コストの値上がりは価格にすぐに反映されてきます。

為替変動

原価の延長ですが、原材料も円安により上昇が加速しています。
海外からの原料については円が弱いと買い負けてしまい、確保も課題となっています。

また、例で挙げているペリカンやモンブラン(ドイツ)、パーカー(イギリス)、アウロラ(イタリア)、ウォーターマン(フランス)などなど、憧れの存在は数多存在しますが、
海外メーカーのものは同じ理屈で原価が上がった上に、輸入コスト+為替換算でジャンプアップです。
最近で言うと新しいiPhoneが出るたび高い!と言われますがドルベースだとそうでもなかったりしますね。

しかし沼というやつで憧れの舶来品、ひとつは欲しくなるのです。

価格の弾力性

ここでもう一点、価格の弾力性という視点があります。
購入者、市場がどこまで値上がりを許容できるかです。

10%の値上がりに対して需要に影響が10%出るか、5%出るか、と測る指標です。
影響値/変動値で計算されるもので前者は10%/10%=1、後者は5%/10%=0.5となり、1より大きいと「弾力性が大きい」といいます。
この値は一般的に生活必需品は小さく、嗜好品は大きいと言われます。

弾力性が大きい=値上げの影響力が高くなるほど値上げが難しい、という考えられますが、
価値観は様々なので、ターゲットとする市場によってこの値は大きく変わってきます。
一般的に、という通り日用品であればなくすわけにいなかないため、多少の値上げは我慢しますが、趣味だったら購入頻度を下げることもあります。
一方で欲しいものなら日々の生活で節約しても買う、熱烈な支持者がターゲットであれば、商品が魅力的であればこの値は小さくなります。

万年筆で言えば、私の感覚だとすごく値上がりして高嶺の花ですが、
コロナ禍以降、国内外ともに万年筆人気が上がっており、海外コレクターには円安も好材料ですし、日本の万年筆はもともと海外ものより安いので高額モデルも古いモデルも買い市場です。
となると、値段を決める側としてはターゲットとする市場をどこに定めるかで変わってきます。
国内市場だけではなく、海外市場も視野に入れれば水準は高めになって、値上げも妥当かもしれません。

最近で言えばインバウンド向けの価格設定がわかりやすいですね。
豊洲の飲食店の海鮮丼、一番安くて4千円代なんてニュースになっていました。
昼休みにサクっと食べる人は想定していないので、こういった品質と値付になります。

価格から見えるもの

と、いずれの要素も「そんなことはわかっているよ」という声が聞こえそうです。
個人的には価格の上昇を許容するため、一つ一つ自分を納得させるためですが、
実際各要因を並べてみると値上げもさもありなんという気持ちになります。
それともう一つ、価格には売り手の考えが反映されています。

事業者は原価の上昇などの影響を踏まえつつ、苦悩をしながら価格調整を行っているので、
自分たちは切り捨てられたなんてことはないのですが、
生き残るために市場を広げたりシフトさせるところはあるかもしれません。
あるいはコストを許容するために減量したり品質を落として価格を維持しているか、
価格から読み取れるものは様々です。

事業主、経営者としては

値付け、値上げに悩まれない方はいないと思います。
事業を行う上で、利益確保が大前提です。
原価割れを起こすようでは事業として成立しませんので、売れないからと安易に価格を抑えることはできません。
まずは価格を許容できる付加価値(品質か、サービスかなど)がどこにあるのかを考えることになります。
身近な街のお客さんを相手にするのか、
観光客などのその時限りの層を相手にするのか、
ECサイトを活用して全国、あるいは全世界を相手にするのか
では価格設定も変わってきますし、届ける品質、内容にも違いが出てきます。
また、その付加価値が消費者に伝わらなければ意味がありませんので、PRも重要性が高くなっています。
最近で言えば、既存商品でも新しい使い方を紹介して売り上げを伸ばしたり、売れないのでとおじいちゃんの商品を孫がPRして売れたり、
あるいは、市場を広げたり、シフトさせるという選択肢がないかを考えることもできます。

様々な事業者の方のお話を伺っておりますが、
成長する企業が共通して大切にされていることは事業計画を常に意識することです。
企業理念やビジョンなど事業の軸を見失わないことに加え、月々の予実管理、市場の動向を合わせて考え、常に見直しすることが非常に重要です。
現在のように価格や市場の変動が激しく、のんびり売れるのを待つことができない時代において、
会計のリアルタイム把握が重要視されているのは、こういった理由があります。

月次顧問ではこういった数字の見方、管理や将来に向けた計画のお手伝いもしております。
顧問ってなにやってるの?というご質問に対する回答の一つです。

趣味の話に戻りますと、

残念ながら金が安くなるとは考えられず、万年筆は今後も値上がりするでしょうから、一生モノと思っていますが、大事に使おうと思います。
欲しいものは欲しいうちに買わないと、とも言えますが…
コロナ以降ペンクリニックが減った気がするんですが、それこそ、ネットで修理してくれるお店に出会えるので、マニアの限られた趣味にならないことを願います。
最近買取業者が万年筆は金だから高く買います!と宣伝しているのが悲しいです。
万年筆として生かして欲しい…

ところで、ここまで高い高い言っていますが、万年筆の良さもたくさんあります。
なんといっても書く楽しみは代えられません。
最近はいろんな種類のインクが増えてインク沼も広がっています。
興味を持たれたら、ぜひメーカーさんの紹介ページもご覧ください。
作り方の紹介ページとか面白いですよ。
セーラー万年筆
パイロット

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